「老後資金2,000万円問題」の裏に隠された、本当に大切なこととは

平均退職給付額
少子高齢化ー総務省

出典:少子高齢化の進行と人口減少社会の到来 – 総務省

昨今、金融庁が2019年6月3日に公表した金融審議会の市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」(以下、報告書)の内容が世間的に大きく取り上げられ、話題になっています。

なかには、「金融庁:老後資金は2,000万円不足」などといった、誤解を招くような表現を散りばめた、明らかに報告書の内容を理解せずに書かれたことがわかる記事も散見されます。

老後の生活費はどれくらい?

世帯主が60歳以上の無職世帯(2人以上の世帯)の1ヵ月間の収入と支出

出典:公益財団法人 生命保険文化センター

世帯主が60歳以上で無職である世帯(世帯員が2人以上)の家計をみると、実収入から非消費支出(税・社会保険料等)を差し引いた可処分所得約17.7万円に対して、消費支出は約23.8万円で、1ヵ月間に約6.1万円が不足しています。

また、60歳以上の単身無職世帯の家計をみると、可処分所得約10.1万円に対して、消費支出は約14.2万円で、約4.1万円が不足しています。

そこでみていただきたいのが、厚生労働省が発表している「老齢年金受給者実態調査 平成23年」です(図表3)

年金受給額

60代前半で29.9万円、90歳以上でも25.8万円で、平均として60代でも90代でもほとんど変わらないというのは驚きです。しかも、こうしたアンケート調査では、回答者は限られているものですから、もしかすると入院でもしてもっとお金のかかっている人ほど、アンケートに回答できていない可能性があります。

ここで再び、退職後の生活に必要な資金総額に話を戻しましょう。

・退職後の生活水準は、現役最後の頃の生活水準に大きく規定される。
・そのため、現役最後の年収との対比(これを欧米では Target Replacement Rates、目標代替率と呼ぶ)で退職後の生活費を考える。日本の場合には、68%を退職後の年間の必要総額として想定する。
・年間の必要総額は年齢を重ねても減らないと考える。
・退職直前の年収を平成24(2012)年の「民間給与実態統計調査」(国税庁)における50代後半男性の平均給与618万円と仮定する。
・退職後の生活を60歳から95歳までの35年間と想定する。

これらをもとに、退職後の必要総額が計算できることになります。具体的に計算してみると、退職後の必要資金総額は1億2,607万円(=618万円×68%×30年間)。

・サラリーマンを想定して、厚生年金の受給額を平成26(2014)年度の標準世帯の年金額22万6,925円を参考に、月額23万円と想定する。
・65歳支給開始として、95歳までの30年間をこの金額で受け取れることと想定する。

これで年金受給総額は、8,280万円(=23万円×12ヵ月×30年間)となります。

もちろん、この金額がこれからもずっと受け取れると考えるのはあまりにも楽観的に思えますが、ここではまず、この想定を前提にしてみます。

必要総額と年金受給総額の差額が自分で用意しなければならない金額、すなわち自助努力の金額ということになりますが、その金額は4,327万円。

2,000万円の2倍以上が、自助努力で必要という計算になりました。

また、ゆとりある老後生活を送るための費用として、最低日常生活費以外に必要と考える金額は平均14.0万円となっています。

その結果、「最低日常生活費」と「ゆとりのための上乗せ額」を合計した「ゆとりある老後生活費」は平均で36.1万円となります。 なお、ゆとりのための上乗せ額の使途は、「旅行やレジャー」がもっとも高く、以下「身内とのつきあい」「趣味や教養」と続いています。

ゆとりある老後生活費

では、現状この赤字額に対して高齢者はどのように対処しているのかというと、次の事実から推測できます。

  • 2017年の高齢夫婦無職世帯の平均純貯蓄額*2,484万円
  • 2017年の定年退職者の退職給付額は平均で1,700万円~2,000万円程度

*純貯蓄額=貯蓄現在高−負債現在高

平均退職給付額

つまり、退職金を中心とした貯蓄の取り崩しでまかなっていると考えられます。というよりも、「貯蓄額を考慮して、毎月5.5万円を取り崩す範囲で生活している」といった方が正確なのかもしれません。

老後資金2,000万円問題

前述を踏まえた上で報告書の話題となった部分を見てみましょう。

「夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職の世帯では毎月の不足額の平均は約5万円であり、まだ20~30年の人生があるとすれば、不足額の総額は単純計算で1,300万円~2,000万円になる。この金額はあくまで平均の不足額から導きだしたものであり、不足額は各々の収入・支出の状況やライフスタイル等によって大きく異なる。」

※報告書より抜粋

何かおかしなことが書かれているでしょうか。確かに計算上、平均1,300万円~2,000万円不足しています。

しかし、あくまでも平均純貯蓄額でやりくりできるのは“現状”であり、“将来”も大丈夫かといわれればそんなことはないのです。

現状に比べて将来、老後資金が不足する原因は主に3つ挙げられます。

  • 寿命が伸びると推測される
  • 退職金が減少傾向にある
  • 年金支給額が減少すると推測される

いずれも老後資金に大きな影響をおよぼすものばかりで、これに対して私たちは適切な備えをする必要があります。そして、そのヒントとなる内容が報告書には丁寧に記載されています。

それこそが、「老後資金2,000万円問題」が独り歩きしてしまったことで、その影に隠れてしまった、私たちが報告書から読み取るべき本当に大切なことなのです。

報告書が提示する老後資金への備えとは

具体的にどのような備えをすればいいのかというと、報告書には主に3つのことが記載されています。

①  適切なライフプランを立てること

「大学卒業、新卒採用、結婚・出産、住宅購入、定年まで一つの会社に勤め上げ、退職後は退職金と年金で収入をまかない、三世帯同居で老後生活を送る」というこれまでの標準的なライフプランが必ずしも当てはまらなくなるこれからの時代は、自分がどのようなライフプランを想定するのか、そのライフプランに伴う収支や資産はどの程度になるかを「見える化」したうえで対応を考える必要があります。

②  「自助」の充実

ライフプランにおける自分が望む生活水準に対して、必要となる資産や収入が足りないと予想される場合は、状況に応じて、就労継続の模索、支出の再点検・削減、保有する資産を活用した資産形成・運用といった「自助」の充実を図りましょう。

③  資産寿命を延ばすこと

想定したライフプランにおいて、公的年金以外でまかなわなければならない金額がどの程度になるかを考え、次の3つのライフステージに応じた資産形成・管理を行いましょう。

1.  現役期

早い時期からの資産形成の有効性を認識し、生活資金やいざというときに備えた資金については元本の保証されている預貯金などにより確保しつつ、将来に向けて少額からでも長期・積立・分散投資による資産形成を行う。

2.  リタイヤ期前後

退職金がある場合、早期の情報収集と使途の検討を行い、退職金を踏まえたライフプラン・マネープランを再検討する。そして、長い人生を見据えた、中長期的な資産運用の継続(長期・積立・分散投資など)とその後の計画的な取崩しを実行する。

3.  高齢期

心身の衰えを見据えてマネープランを見直し(医療費、老人ホーム入居費など)、認知・判断能力の低下や喪失に備え、取引関係の簡素化など心身の衰えに応じた対応をしやすくする。また、金融面での意思を明確にしておき、自分が行動できなくなったとしても、家族など他者のサポートにより、これまでと同様の金融サービスを利用しやすくしておく。

良くも悪くも一石を投じた報告書

「老後資金2,000万円問題」は、良くも悪くも多くの人に資産形成について真剣に考えるきっかけを作ったことは間違いありません。

年金制度が将来にわたって機能していくよう、一国民としてしっかりと運営を監視することはもちろん大事ですが、そればかりにとらわれて、報告書が提示する「本当に大切な備え」をおろそかにしてしまうのは本末転倒です。

今後は老後への備えとして「ライフプラン・マネープラン」「就労継続」「支出削減(節約)」そして「資産運用」がキーワードとなることはまず間違いないでしょう。これらを着実に実行し、老後に備えていけば、少なくとも今よりも良い未来が待っているのではないでしょうか。

老後への備えのヒントが詰まった金融庁の報告書。断片的で誤解を招く情報に踊らされないためにも、一度全文を読んでみることをお勧めします。